Sui Sha | 27476steps in one day
27476steps in one day
11月某日。私のスマホの歩数計は、27476という数字を表示した。
900を超える戸数の工事現場。南北の棟にわかれてあり、それぞれが地下2階地上 25階を有する。非常用階段、非常用EVが主に許可される移動経路で、この写真はおそらく、非常用エレベーターホールにいる時ではないかと推察され、そしてこの作品は、その時の無為写真をもとに創作した写真画です。
ずらりと並ぶ、同じ形状のドア。10数戸ずつ並列しているその光景は、どの階にも同じ。非常階段で上下移動する時は、踊り場でターン踊り場でターン踊り場で ターン。開けては閉めての東奔西走。窓のない、薄暗い照度の内廊下。おっと行き すぎた。ええとちょっと待って。今、私は、どっちのタワーの何階にいるんだ?
数千万から数億の、数字がつけられた分譲マンションは、完成して住むのを心待ち にするそれぞれの意識や感情をあらわにしていく。従事する人々は、約束されてい た色、形、素材を調理して、喜びまでの仕度をする。きたいという名の空気をあたためる。
ずり落ちて、視界を邪魔するヘルメット。外履き用の靴、内履き用の靴、室内用の スリッパ。白手袋、蛍光ペン、ボールペン。関係者であることを証明する腕章。土埃に汚れる防寒着。トランシーバー、携帯電話、書類の束。この身と同体になるこ の物たち。
物事はいつだって両側面が抱きあわせになっている。薄暗いゴーストレートな内廊 下に、閉塞と、息苦しさを感じてしまったあの瞬間を、いま。ホワイトキューブの 空間にピンでとめ、スポットライトをあてる。多くの人があしをとめる。キャプ ションの右下に小さく表示された黒い正方形が、作品の原型と知って、へえ!と声 をあげる。
これ以降わたしは、カラフルを授けるのだ。
〜2024.3.4~3.16「アートの競演2024春暁」
この写真画は、工事現場の非常用エレベーターホールにいる時に撮れていたと推察される、無作為写真をもとに創作した写真画です。 この現場に携わった数ヶ月間の中で、ある1日の歩数が27476歩を計測したことがあり、作品のタイトルとしました。
経済的豊かさの象徴。そして、多くの個々人にとっては、終の棲家を意識したと思われる空間の実現に携わりながら、千篇一律、そして閉塞といった相対する印象を持ってしまったことは、自身の空間に携わる在り方を考える転換点となりました。
このギャップに直面して思い至ったのは、27476歩を計測した1日の1歩にも異なる目的やシーンがあったこと。どのポイントで観るかによって、同じようにみえても異なり、異なるように見えても広い意味では同じなのだから、そこへ留まらずに超えてゆくことだな、ということです。そうして、それぞれを包括する観点に立ち戻りながら、この無作為写真のモノクロームを、カラーフルな一つ一つに変換して表出しています。これは、現在進行形という、作品の持つ一要素といえます。
前、3月の展示では、印刷した和紙と調和する仕立てを目指し、ナチュラルとモダンを意識した額装仕上げで統一することと同時に、南北などを含む「対比」が表現されましたが、今回は、時節を意識して、涼を持たせながら少々の個性(遊び心)を加味した仕上げとしました。この作品が、飾られる空間の、喜びの一要素となれれば幸いです。
〜2024.7.15~7.27「アートの競演2024白雨」